秋が深まり、お花屋さんの店先に大ぶりのユリが並ぶ季節になりました。香りも姿も堂々としていて、贈り物にもよく選ばれる花です。
けれど猫と暮らしていると、あの花の前で足が止まりますよね。
「ユリが猫に危険なのは知っている。でも、何がどう危ないの?」
「ユリの毒って、結局どんな成分なんだろう」
この記事では、ユリが猫の腎臓に何を起こすのか、そしてその原因物質が今どこまで分かっているのかを、一次情報にあたって整理します。
結論から言うと、 ユリ(ユリ科ユリ属、Lilium species)とワスレグサ/デイリリー(Hemerocallis spp.、ASPCAの分類ではススキノキ科ワスレグサ属)が猫に急性腎障害を起こすことは、症例と実験の両方で確立した事実です。一方で、それを起こしている毒性成分そのものは、2026年現在も特定されていません。
ASPCAのユリのページには、毒性成分の欄に「Unknown」とだけ書かれています
アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)の毒性植物データベースは、猫と花の話でもっとも広く参照されている一次情報です。ネコハナが花を選ぶときの土台にもしています。
そのデータベースで「Lily」のページを開くと、こう書かれています。
- Scientific Name: Lilium species
- Family: Liliaceae(ユリ科)
- Toxicity: Toxic to Cats(猫に対して有毒)/ Non-Toxic to Dogs, Non-Toxic to Horses(犬・馬には非毒性)
- Toxic Principles(毒性成分): Unknown(不明)
- Clinical Signs: Cats: kidney failure.(猫: 腎不全)
ワスレグサ/デイリリーのページも同じです。Hemerocallis spp.、Toxic to Cats、そして Toxic Principles は Unknown。
世界でもっとも参照される動物中毒のデータベースが、猫にとって最も危険な花について、毒の名前を書けていないのです。
これはASPCAだけの話ではありません。米国のPet Poison Helplineの獣医毒性専門医が執筆したMerck獣医マニュアル(2024年9月更新)は、ユリの毒性成分を「Unknown toxin found throughout plants(植物全体に存在する未知の毒素)」と記載しています。
査読論文の側も一致しています。
- Langston(2002年、JAVMA)「the toxic principle is not known(毒性本体は分かっていない)」
- Fitzgerald(2010年、Topics in Companion Animal Medicine)「The exact toxic dose and the precise toxins responsible for renal damage are currently unknown(中毒量も、腎障害の原因となる毒素も、現時点で不明)」
- Ozaki ら(2018年、Journal of Veterinary Medical Science)「The exact mode of action and exact toxic substance of lily poisoning remain unidentified(作用機序も毒性物質も未同定のままである)」
- Bideci ら(2025年、Kocatepe Veterinary Journal)「The mechanism of toxicity is not known exactly(毒性の機序は正確には分かっていない)」
2002年から2025年まで、同じ文が繰り返されています。これは古い話ではなく、現在進行形の空白です。
確立していること — ユリが猫の腎臓を壊すことは、疑いようがない
原因物質が分からないことと、危険性が曖昧であることは、まったく別の話です。ここを先に固めておきます。
壊れるのは、腎臓のどこか
Rumbeiha ら(2004年、Journal of Veterinary Diagnostic Investigation)は、イースターリリーの葉と花の抽出物を猫に投与する実験研究を行いました。この研究で分かったことは2つあります。
ひとつは、毒性を示したのが水で抽出した画分だけだったこと。有機溶媒で抽出した画分には腎毒性がありませんでした。
もうひとつは、その水抽出物によって再現された病変です。腎臓の組織では「acute necrosis of proximal convoluted tubules」、近位曲尿細管(腎臓が原尿から必要なものを再吸収する、いちばん働き者の管)の急性壊死が起きていました。電子顕微鏡ではミトコンドリアの膨化や巨大ミトコンドリア、浮腫、脂質沈着も認められています。
臨床所見としては、嘔吐、沈鬱、多尿、多飲、高窒素血症、糖尿、蛋白尿、等張尿。あわせて膵臓の腺房細胞の変性も見られ、この研究では腎毒性だけでなく膵毒性も報告されています。
時間の目安は「12〜30時間」と「24〜48時間」
To ら(2023年、Frontiers in Veterinary Science)は、ユリ中毒の経過についてこう記載しています。
多尿性の急性腎障害(AKI)は摂取後12〜30時間で発生し、尿がまったく出なくなる無尿性AKIは24〜48時間の間に生じうる。
つまり、食べた直後は元気に見えることがあるということです。Merck獣医マニュアルも、摂取後1〜3時間で流涎(よだれ)・食欲不振・元気消失・嘔吐が出て、そこから12〜30時間かけて多尿と脱水へ進むと記載しています。
時間軸だけを取り出すと、次のようになります。
| 摂取からの時間 | 起こりうること | 出典 |
|---|---|---|
| 1〜3時間 | 流涎(よだれ)、食欲不振、元気消失、嘔吐 | Merck獣医マニュアル(2024年9月更新) |
| 12〜30時間 | 多尿性の急性腎障害(AKI)が発生。多尿と脱水へ進む | To ら(2023年)/Merck獣医マニュアル |
| 18時間を超えて治療開始 | 腎障害が不可逆になりうる | ASPCApro |
| 24〜48時間 | 尿がまったく出なくなる無尿性AKIが生じうる | To ら(2023年) |
「元気だから大丈夫」と判断できる時間帯が、この中毒にはありません。
尿が出なくなった猫の予後は悪い
Langston(2002年)は、イースターリリーまたはオニユリを摂取した猫6頭の症例をまとめています。全頭に内科治療を行い、うち2頭には血液透析も実施しました。
結果は、3頭が急性期を乗り切り(慢性腎不全は残ったものの1年半以上生存)、2頭が死亡、1頭が安楽死。そして、初診時に乏尿または無尿だった3頭は全頭が死亡し、生存した3頭にはいずれも乏尿・無尿がなかったと報告されています。
最新の症例集積では、AKIの発生率は約47%
Lam ら(2025年、JAVMA)は、ユリに曝露した猫112頭を入院治療群と外来治療群に分けて比較しました。
急性腎障害の発生率は、入院群96頭中45頭(46.9%)、外来群16頭中7頭(43.8%)。両群に有意差はありませんでした。生存率は入院群100%、外来群86.5%で、入院群が有意に高いという結果です。
著者らはこの論文で、両群ともAKIの発生率がこれまでの報告より高かったと述べています。ユリ中毒は楽観的に見積もれるものではない、という最新の知見です。
なお曝露源は花だけではありません。Fitzgerald(2010年)は「植物全体(花弁・雄しべ・葉・花粉)が毒性を持つ」としており、ASPCAの公式記事も、顔についた花粉を舐めること、ユリを生けていた花瓶の水を飲むことを曝露経路として名指ししています。
分かっていないこと — 20年かけて「どこにあるか」までは絞れた
では、研究が止まっていたのかというと、そうではありません。「どこにあるか」までは、着実に絞り込まれてきました。
出発点はRumbeiha ら(2004年)です。前述のとおり、毒性を持つのは水溶性の画分だと分かりました。さらにこの研究では、毒性化合物の大部分が花の水抽出物の亜画分IIa3に含まれていたところまで特定されています。
そこから10年後、ノルウェー獣医学研究所のUhlig ら(2014年、Toxicon)が、化学的な特定に踏み込みました。
彼らが使ったのは、猫の腎細胞株です。細胞への毒性を指標にしてイースターリリーの花の抽出物を分けていく「バイオアッセイ誘導分画」という手法で、活性のある成分を追いかけました。
その結果、細胞毒性は単一の物質ではなく複雑な化合物の混合物に由来しており、質量分析によって solasodine(ソラソジン)型のステロイドグリコアルカロイドと暫定同定(tentatively identified)されました。活性画分の配糖体は三糖鎖を持ち、少なくとも16種の類縁体が分離されています。
ここまで来れば犯人確定、と言いたくなるところです。けれど、そうはなっていません。
同じ論文の抄録は、冒頭で「原因となる植物化学物質はまだ同定されていない」と述べており、著者ら自身がこの研究を「パイロットスタディ」と位置づけています。
理由は単純です。これは培養した細胞に対する毒性であって、生きた猫の腎臓でユリ中毒を起こしている物質だと確認されたわけではないからです。2015年以降、この候補を確定させた研究を私は見つけられませんでした。
現時点で正確に言えるのは、「有力な候補群は挙がっているが、確定していない」というところまでです。
毒の名前がないと、何ができないのか
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。「毒性成分が未特定」というのは学術的な小ネタではなく、飼い主さんの行動に直結する話だからです。
毒物が特定されていないことには、3つの実務的な帰結があります。
①血液検査で「ユリ中毒である」と証明できません。
Fitzgerald(2010年)は、はっきりこう書いています。「No analytic verification of lily ingestion is currently available.(ユリ摂取を確かめる分析的手段は現時点で存在しない)」
測るべき物質が分からないのですから、測りようがありません。診断は、猫がユリに触れたという情報と、腎数値の推移から組み立てるしかないのです。
②解毒薬がありません。
解毒薬は「この物質にはこれが効く」という対応関係の上に成り立ちます。物質が分からない以上、その対応関係を作れません。
③「どの品種の何グラムまでなら大丈夫」という線が引けません。
用量反応の線を引くには、原因物質の濃度を測る必要があります。それができないので、「花びら1枚なら」「この品種なら」という判断の根拠が、そもそも存在しないのです。
参考までに、Fitzgerald(2010年)の総説には「葉2枚、あるいは花1個の一部で死亡例がある」という記述があります。ただしこれは総説での記載であり、その元になった原著の症例データを私は確認できていません。数値そのものより、「少量でも報告がある」という事実のほうを受け取ってください。
だから治療は「解毒」ではなく「洗い流す」になる
以上をまとめると、ユリ中毒への対応は「毒を消す」ことではありません。毒が腎臓に効き切ってしまう前に、体から洗い流すことになります。具体的には、動物病院で行う消化管の除染(催吐処置・活性炭の投与)と、輸液による利尿です。ご家庭で吐かせようとしないでください。
Merck獣医マニュアルは、腎保護を目的に維持量の2〜3倍の輸液を48〜72時間続けると記載しています。ASPCAの獣医療者向けサイトASPCAproは、真のユリのいずれかの部位に曝露した猫には48時間の静脈内輸液利尿を行うべきとし、曝露後18時間を超えて治療を開始した場合、腎障害は不可逆になりうるとしています。
つまり、時計との勝負です。
その裏づけとして、Bennett & Reineke(2013年、JAVMA)の報告があります。ペンシルベニア大学の動物病院で、摂取後48時間以内に来院した猫25頭を対象とした後ろ向きの症例集積です。
- 入院した23頭のうち17頭(74%)は、入院期間を通じてBUN・クレアチニンが正常のままだった
- 退院時に腎数値の上昇があったのは23頭中2頭(9%)
- 25頭全頭(100%)が生存退院した
ここで必ず添えなければならない条件があります。この100%という数字は、「摂取後48時間以内に来院し、除染と輸液利尿を受けた猫」という選ばれた集団の成績であって、ユリを食べた猫全体の生存率ではありません。「ユリ中毒は治る」と読み替えないでください。
同じ研究グループが12年後にまとめたLam ら(2025年)で、AKIの発生率が約47%と報告されていることも、あわせて思い出していただければと思います。
なぜ猫だけなのか — ここも、実は分かっていない
「ユリの腎毒性は猫特有」「犬は大丈夫」。よく言われる話です。では、その理由は解明されているのでしょうか。
ここも、分かっていません。
分類の事実として言えることは、次のとおりです。ASPCAは Lilium を「Non-Toxic to Dogs, Non-Toxic to Horses」、Hemerocallis を「Non-Toxic to Dogs」と分類しています。Merck獣医マニュアルの記載は「ユリは大半の動物には毒性を示さないが、猫は中毒への感受性が非常に高い(Although lilies are not toxic to most animals, cats are highly sensitive to poisoning)」です。Ozaki ら(2018年)は、犬では嘔吐などの消化器症状のみが観察されると記載しています。
実験報告もあります。Hall(2007年、Poisonous Plants: Global Research and Solutions 所収)は、イースターリリーの葉を猫・ラット・ウサギに投与しました。猫には多量の流涎、多尿、血液生化学値の変動、腎病変が認められた一方、ラットとウサギには臨床病理学的にも組織病理学的にも変化が認められませんでした。
ただし、この研究には注意が必要です。対象に犬は含まれていません(抄録に犬への言及がありません)。そして猫は1頭のみです。「犬で実験して安全性が確かめられた」という報告を、私は確認できていません。犬について書けるのは、「ASPCAが Non-Toxic to Dogs と分類している」「犬での腎障害の報告は確認できていない」までです。
イエネコだけ、でもない — ミーアキャットの疑い例
さらに、種差の境界そのものが揺れています。
Ozaki ら(2018年、Journal of Veterinary Medical Science、オープンアクセス)は、生後7か月の雌のミーアキャット(Suricata suricatta)で、ユリ中毒の疑い例(suspected lily toxicosis)を報告しました。日本の研究者による症例報告です。
ミーアキャットはネコ科ではありません。ネコ亜目のマングース科に属します。
この個体はオリエンタルリリー(Lilium 'Casa Blanca')の花と蕾を摂取したのち、乏尿、痙攣、頻呼吸、自咬、眼振を呈し、摂取からおよそ40時間後に死亡しました。病理検査では、猫のユリ中毒の典型と一致する急性尿細管壊死が認められています。加えて、猫では報告の少ない広範な肝細胞壊死と、肺のうっ血・浮腫を併発していました。
あくまで「疑い例」であり、1例です。それでも、「猫だけ」という線引きが生物学的な理由に基づくものではなく、これまでの報告の蓄積から経験的に引かれているだけであることは、この症例がよく示しています。
「猫は解毒が苦手だから」という説明について
ここで、正直に書いておかなければならないことがあります。
猫と植物の話でよく登場する説明に、「猫はグルクロン酸抱合(体内に入った物質に糖をくっつけて、水に溶けやすくして排出する仕組み)が苦手だから、植物の毒に弱い」というものがあります。当ブログの過去記事でも、この説明を使ってきました。
猫のグルクロン酸抱合能が乏しいこと自体は、確立した知見です(Shrestha ら、2011年、PLoS ONE)。UGT1A6という酵素の遺伝子が、猫では機能を失った偽遺伝子になっています。
しかし、これをユリの腎障害に当てはめた査読文献を、私は1本も確認できませんでした。
Europe PMCで(ユリ関連語)×(グルクロン酸抱合・UGT1A6)×(猫)の組み合わせを検索しましたが、該当した4件はいずれも無関係な論文でした。Fitzgerald(2010年)の総説にも、Merck獣医マニュアルの該当章にも、Ozaki ら(2018年)にも、グルクロン酸抱合への言及はありません。
そもそも、ユリの毒性成分が未同定である以上、それがグルクロン酸抱合の対象になる物質かどうかも論じようがありません。UGT1A6が担うのは主にフェノール類の抱合ですが、Uhlig ら(2014年)が挙げた候補はステロイドグリコアルカロイドであり、フェノール類ではありません。
「猫は一部の物質の解毒が苦手」という一般論と、「ユリが猫に腎障害を起こす」という現象は、現時点ではつながっていない別々の事実です。 私たち獣医師が説明のために使ってきた言い回しですが、ユリに関しては根拠が確認できませんでした。
「リリー」という名前は、何も保証しません
もうひとつ、実務でいちばん事故につながっているのが名前の問題です。
ASPCAのデータベースで「Lily」の名を持つ植物を並べると、毒性成分の欄はまったく別物になります。すべて2026年9月6日に個別ページで原文を確認したものです。
| 日本語名 | 学名(科・属はASPCAの記載による) | Toxicity(ASPCA原文) | Toxic Principles(ASPCA原文) | 主な症状 |
|---|---|---|---|---|
| ユリ | Lilium species(ユリ科ユリ属) | Toxic to Cats / Non-Toxic to Dogs, Non-Toxic to Horses | Unknown | 腎不全 |
| ワスレグサ/デイリリー | Hemerocallis spp.(ススキノキ科ワスレグサ属) | Toxic to Cats / Non-Toxic to Dogs | Unknown | 嘔吐、食欲不振、元気消失、腎不全、死 |
| スパティフィラム(ピースリリー) | Spathiphyllum(サトイモ科スパティフィラム属) | Toxic to Dogs, Toxic to Cats | Insoluble calcium oxalates(不溶性シュウ酸カルシウム) | 口・舌・唇の強い刺激と灼熱感、流涎、嘔吐、嚥下困難 |
| カラー(カラーリリー) | Zantedeschia aethiopica(サトイモ科オランダカイウ属) | Toxic to Dogs, Toxic to Cats | Insoluble calcium oxalates | 同上 |
| スズラン | Convallaria majalis(キジカクシ科スズラン属) | Toxic to Dogs, Toxic to Cats, Toxic to Horses | Cardenolides(カルデノリド。convallarin ほか) | 嘔吐、不整脈、低血圧、見当識障害、昏睡、けいれん |
| アルストロメリア(ペルビアンリリー) | Alstroemeria(ユリ科アルストロメリア属) | Non-Toxic to Dogs, Non-Toxic to Cats, Non-Toxic to Horses | (記載なし) | — |
この表から言えることを3つ挙げます。
①「腎臓に来る」のはユリとデイリリーだけです。 ピースリリーとカラーの毒性成分は不溶性シュウ酸カルシウムで、起きるのは口の中の物理的・化学的な刺激です。Merck獣医マニュアルは「insoluble oxalates do not pose a concern for renal injury(不溶性シュウ酸塩は腎障害の懸念にはならない)」と明記しています。「ユリ類はどれも腎臓に来る」という説明は正確ではありません。スズランはさらに別で、心臓に作用するカルデノリドを含みます。
②名前は当てになりません。 ASPCAのカラーのページには、別名として "Trumpet Lily"(トランペットリリー)や "Arum Lily" が並んでいます。一方、猫に腎障害を起こすテッポウユリ(Lilium longiflorum、イースターリリー)も、英語ではトランペット型の花として語られます。名前で見分けようとした時点で、判別は破綻します。
③科でも決まりません。 ASPCAの分類では、Lilium はユリ科、Hemerocallis はススキノキ科、Convallaria はキジカクシ科と、それぞれ別の科に置かれています。腎毒性を示すのはこのうち2属だけで、しかも科をまたいでいます。逆に、ASPCAがユリ科に分類しているアルストロメリアは Non-Toxic to Cats です。
なお、ASPCAの科の表記には、分類体系が改訂される前のものが含まれています。現行の分類体系(APG IV、2016年)では、Alstroemeria はユリズイセン科(Alstroemeriaceae)に、Hemerocallis はツルボラン科(Asphodelaceae。旧 Xanthorrhoeaceae)に置かれています。科の名前そのものが動くという事実も、科で判断できない理由のひとつです。
危険性は、科でも、名前に「リリー」が付くかどうかでもなく、属(Lilium / Hemerocallis)で決まる。 これが、実務でいちばん役に立つ判別基準です。
なおASPCAは、どんな植物質であっても摂取すれば軽度の消化器症状は起こりうる、と注意書きを添えています。非毒性の分類は「食べさせてよい」という意味ではありません。
より広く危険な花を知りたい方は、猫がいる家で「絶対に飾ってはいけない花」ワースト5とその理由もあわせてお読みください。
よくある質問
ユリの毒性成分は何ですか?
2026年現在、特定されていません。
ASPCAの毒性植物データベースは Lilium・Hemerocallis いずれについても Toxic Principles を「Unknown」と記載しており、Merck獣医マニュアル(2024年9月更新)も「未知の毒素」としています。Uhlig ら(2014年)が猫の腎細胞株を用いた分画でsolasodine型ステロイドグリコアルカロイドを暫定同定していますが、生体で腎障害を起こす物質として確定したものではありません。
猫が花瓶の水を舐めただけでも危険ですか?
危険な経路のひとつとして扱ってください。
ASPCAの公式記事は、ユリを生けていた花瓶の水を飲むこと、顔についた花粉を舐めることを、実際の曝露経路として名指ししています。Pet Poison Helplineも「葉・茎・花・花粉・花瓶の水・根茎のどれであっても、量にかかわらず」毒性があるとしています。
切り花の水そのものについては、猫が花瓶の水を飲んだ!すぐ病院に行くべき?で詳しく解説しています。
高い場所に置けば大丈夫ですか?
おすすめできません。むしろ、逆の可能性を示すデータがあります。
Slater & Gwaltney-Brant(2011年、JAAHA)は、2009年4月にASPCA中毒管理センターへ屋内でのユリ曝露を通報した飼い主48人(猫57頭)を調査しました。
その結果、曝露前にユリが猫に毒性を持つと知っていた飼い主は27%にとどまり、知らなかった飼い主は猫の届く場所に花を置いていました。そして、毒性を知っていた家庭では、猫のほうが積極的に花を探し出していたと報告されています。
米国での、しかも2009年4月の1か月間の通報者を対象とした調査という限定はあります。それでも、「隠す・高く置く」という対策の限界を示す数字だと私は受け取っています。持ち込まないことが答えになる花です。
なおこの調査では、猫の93%が速やかに受診し、87%は無症状か短期間で症状が消失した一方、5%は最終フォローアップ時点で腎機能低下の所見があり、さらに5%が腎不全のため安楽死されています。
猫がユリをかじったかもしれません。様子を見てもいいですか?
様子を見ないでください。すぐに動物病院へ連絡してください。
理由は本文で述べたとおりです。多尿性の急性腎障害が現れるのは摂取後12〜30時間で、それまでは元気に見えることがあります。ASPCAproは、曝露後18時間を超えて治療を開始した場合に腎障害が不可逆になりうるとしています。「元気だから大丈夫」と判断できる時間帯が、この中毒にはありません。
受診時の持ち物や連絡の仕方は、猫が危険な花を食べた時の緊急対応ガイドにまとめています。可能であれば、かじられた花そのものを持参してください。
犬がユリを食べた場合はどうですか?
ASPCAは Lilium・Hemerocallis のいずれについても犬を「Non-Toxic to Dogs」と分類しています。Ozaki ら(2018年)も、犬では嘔吐などの消化器症状のみが観察されると記載しています。
ただし「犬で腎障害が起きないことが実験で確かめられている」という報告は、私が探した範囲では確認できませんでした。確認できた実験(Hall、2007年)の対象は猫・ラット・ウサギで、犬は含まれていません。正確には「今のところ犬での腎障害の報告がない」までです。消化器症状が続くようであれば、動物病院にご相談ください。
ユリ中毒の論文はどこで読めますか?
猫と花に関する査読論文・症例報告は、猫と花の研究論文・症例報告まとめに一覧をまとめています。本記事で引用した文献は、記事末尾の参考文献にDOI・PMIDつきで掲載しています。
まとめ
- ユリ(Lilium 属)とワスレグサ/デイリリー(Hemerocallis 属)が猫に急性腎障害を起こすことは、症例と実験で確立している。病変の本体は近位曲尿細管の急性壊死(Rumbeiha ら、2004年)
- その原因物質は2026年現在も特定されていない。 ASPCAの毒性成分欄は「Unknown」で、2002年から2025年までの文献が一貫して「未同定」と記載している
- 毒の名前がないため、血液検査でユリ中毒を証明する手段がなく、解毒薬もなく、「何グラムまでなら」という線も引けない。だから対応は除染と輸液利尿という「洗い流す」処置になり、時間との勝負になる
- 多尿性の急性腎障害は摂取後12〜30時間、無尿性は24〜48時間で生じうる(To ら、2023年)。摂取後48時間以内に来院・治療を受けた猫25頭では全頭が生存退院しているが(Bennett & Reineke、2013年)、これは選ばれた集団の成績である
- なぜ猫だけなのかも分かっていない。ラット・ウサギでは腎障害が出なかった実験報告がある一方、2018年にはミーアキャットの疑い例が報告されている。「猫は解毒が苦手だから」という説明をユリに当てはめた査読文献は確認できなかった
- 危険性は科でも「リリー」という名前でもなく、属で決まる。アルストロメリアはASPCAがユリ科に分類しながら Non-Toxic to Cats としており(現行分類ではユリズイセン科)、カラーの別名には "Trumpet Lily" が入っている
原因物質が分からないことは、危険性を割り引く理由にはなりません。むしろ、全量を家に持ち込まないという判断の根拠になります。
気になる症状がある場合は、自己判断せず、かかりつけの動物病院にご相談ください。
「猫に安心なお花」で、彩りある暮らしを
猫と暮らすみなさんが、「危険な植物を理解し、避ける」ことももちろん大事ですが、この情報は日々アップデートされますし、一人で勉強し続けるのはなかなか難しいのではと思います。そんな時はぜひ、ネコハナをご利用ください。

「猫が大好きでお花が飾れなくなってしまった…」そんな猫と暮らす方の声から生まれたのがネコハナです。アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)の毒性リストをもとに、猫に毒性のないとされる花品種のみを無農薬~低農薬で栽培し、契約農家から直送しています。
私たちのミッションは、猫と暮らす皆さんがストレスなく、持続可能な方法で猫にとって快適かつ安全な生活空間をつくれるようサポートすることです。
参考文献
ASPCA 毒性植物データベース(個別ページ)
- ASPCA Animal Poison Control Center「Toxic and Non-toxic Plants: Lily(Lilium species)」リンク
- ASPCA「Toxic and Non-toxic Plants: Day Lilies (many varieties)(Hemerocallis spp.)」リンク
- ASPCA「Toxic and Non-toxic Plants: Peace Lily(Spathiphyllum)」リンク
- ASPCA「Toxic and Non-toxic Plants: Calla Lily(Zantedeschia aethiopica)」リンク
- ASPCA「Toxic and Non-toxic Plants: Lily of the Valley(Convallaria majalis)」リンク
- ASPCA「Toxic and Non-toxic Plants: Peruvian Lily(Alstroemeria)」リンク
専門機関のリファレンス・公式記事
- ASPCA「Getting to the Bottom of the Dangers of Easter Lilies」(2019-03-27)リンク
- ASPCApro「How to Spot Which Lilies Are Dangerous to Cats & Plan Treatment」(掲載日の表示は確認できず)リンク
- Schmid RD「Houseplants and Ornamentals Toxic to Animals」Merck Veterinary Manual(全面改訂 2023年11月/最終更新 2024年9月)リンク
- Pet Poison Helpline「Lilies」リンク
査読論文・書籍章
- Langston CE (2002)「Acute renal failure caused by lily ingestion in six cats」Journal of the American Veterinary Medical Association 220(1):49-52, 36. DOI: 10.2460/javma.2002.220.49 / PMID: 12680447 リンク
- Rumbeiha WK, Francis JA, Fitzgerald SD, Nair MG, Holan K, Bugyei KA, Simmons H (2004)「A comprehensive study of Easter lily poisoning in cats」Journal of Veterinary Diagnostic Investigation 16(6):527-541. DOI: 10.1177/104063870401600607 / PMID: 15586568 リンク
- Hall JO (2007)「Nephrotoxicity of Easter Lily (Lilium longiflorum)」in Poisonous Plants: Global Research and Solutions, pp.271-278, CAB International Press. リンク
- Fitzgerald KT (2010)「Lily toxicity in the cat」Topics in Companion Animal Medicine 25(4):213-217. DOI: 10.1053/j.tcam.2010.09.006 / PMID: 21147474 リンク
- Slater MR, Gwaltney-Brant S (2011)「Exposure circumstances and outcomes of 48 households with 57 cats exposed to toxic lily species」Journal of the American Animal Hospital Association 47(6):386-390. DOI: 10.5326/JAAHA-MS-5629 / PMID: 22058344 リンク
- Shrestha B, Reed JM, Starks PT, Kaufman GE, Goldstone JV, Roelke ME, O'Brien SJ, Koepfli KP, Frank LG, Court MH (2011)「Evolution of a Major Drug Metabolizing Enzyme Defect in the Domestic Cat and Other Felidae: Phylogenetic Timing and the Role of Hypercarnivory」PLoS ONE 6(3):e18046. DOI: 10.1371/journal.pone.0018046 リンク
- Bennett AJ, Reineke EL (2013)「Outcome following gastrointestinal tract decontamination and intravenous fluid diuresis in cats with known lily ingestion: 25 cases (2001-2010)」Journal of the American Veterinary Medical Association 242(8):1110-1116. DOI: 10.2460/javma.242.8.1110 / PMID: 23547675 リンク
- Uhlig S, Hussain F, Wisløff H (2014)「Bioassay-guided fractionation of extracts from Easter lily (Lilium longiflorum) flowers reveals unprecedented structural variability of steroidal glycoalkaloids」Toxicon 92:42-49. DOI: 10.1016/j.toxicon.2014.09.004 / PMID: 25269117 リンク
- Ozaki K, Hirabayashi M, Nomura K, Narama I (2018)「Suspected lily toxicosis in a meerkat (Suricata suricatta): a case report」The Journal of Veterinary Medical Science 80(3):485-487. DOI: 10.1292/jvms.17-0645 / PMID: 29311434 / PMCID: PMC5880830 リンク
- To A, Davila C, Stroope S, Walton R (2023)「Case report: Resolution of oligo-anuric acute kidney injury with furosemide administration in a cat following lily toxicity」Frontiers in Veterinary Science 10:1195743. DOI: 10.3389/fvets.2023.1195743 / PMID: 37476822 / PMCID: PMC10354244 リンク
- Lam J, Hess RS, Reineke EL (2025)「Prevalence of acute kidney injury and outcome in cats treated as inpatients versus outpatients following lily exposure」Journal of the American Veterinary Medical Association 263(1):41-46. DOI: 10.2460/javma.24.05.0355 / PMID: 39419082 リンク
- Bideci Z, Erdoğan E, Kimya SN, Civelek T (2025)「Case Report: Lily (Lilium Orientalis) Poisoning in a Cat」Kocatepe Veterinary Journal 18(2):185-191. DOI: 10.30607/kvj.1656903 リンク
- The Angiosperm Phylogeny Group (2016)「An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG IV」Botanical Journal of the Linnean Society 181(1):1-20. DOI: 10.1111/boj.12385 リンク
この記事を書いたのは…
最終更新: 2026-9-13